○学校と家庭の教育上の協力について

昭和四一年二月一一日

四一教指管発第五六号

各区市町村教委教育長

各教育庁出張所長

各公立小中学校長

さきに昭和四〇年一一月一九日付で、入試準備教育の是正について通達した。この通達の主旨の実現は、教育者が姿勢を正し、教育の全体像を見通して、学校教育を積極的に遂行することによつて、はじめて可能となるのである。単に入試準備のための補習の廃止、模擬テスト参加の自粛、学習塾への通塾等に対する指導だけにとどまつていては、その主旨を実現することはできない。各学校では、上記の通達の主旨に基づいて、それぞれ真剣に努力を続けているのであるが、重ねてその主旨を明らかにし、学校教育を正しく推進するのに役だつ指針をここに示すことにする。

一 児童生徒の一般的傾向

現代の児童生徒の一般的傾向として、自分の意見を率直に述べるとか、明るくのびのびしているとか、あるいは体位が向上しているとか、多くの好ましい点があげられるが、憂うべき諸傾向も指摘されている。

精神の面においては、衝動的で自制力が乏しいとか、利己的、打算的で他に奉仕する精神に欠けたところがあるとか、あるいは、忍耐強く努力することをきらうとか、集団の一員としての正しい連帯感や規律を守る態度が、自主の精神に比べてふじゆうぶんであるなどの傾向があげられている。

身体の面においては、体力の調和的な発達を欠き、特に持久力が乏しいといわれるが、また、肥満児や近視の児童生徒が目立つてきていることが指摘されている。

学習においても、断片的な知識の集積にかたより、一般的に、思考力、創造力などが弱いという批判もある。

以上のような傾向の現われてきた一つの原因として、学校や家庭において、入試準備教育のために、情操のかん養や体力の鍛練が軽視され、知育偏重の傾向が強く、しかも、その知育もかたよつたものとなつていることがあげられる。われわれはこのような事態に対して率直に反省しなければならない。

二 学校教育と家庭教育

児童生徒の人間形成にあたつては、家庭と学校とがそれぞれの教育的機能をじゆうぶんに発揮することが必要である。

基本的なしつけをし、安定した情緒をもたせることについては、家庭教育が大きな力をもつものであつて、学校教育だけではじゆうぶんな効果をあげることができない。しかるに、これらの面は学校教育に過度にまかせられている傾きがある。一方教科の学習は、本来学校教育が受け持つべきことであるが、家庭が学習の指導に深入りし、しかも学校で教える方向と食い違つたものになつている例も見られる。要するに、最近の傾向として、学校教育と家庭教育とのそれぞれの本来の使命について、理解がじゆうぶんでないうらみがあるのであつて、このような状態であつては、前述のような児童生徒の好ましくない傾向を是正することはむずかしいといわなければならない。

三 学校教育のあり方

学校においては、適切な教育課程を編成して、毎時の授業に全精力を傾けるべきであり、特に教科については、その目標を達成するために、内容を精選し、じゆうぶんな指導を行なつて、現在のような形の補習などの必要がおこらないようにしなければならない。

学校で行なう補習についてもかえりみるべき弊害があるのであるが、ことに多くの児童生徒が学習塾に通つたり、模擬テストにしばしば参加したりすれば、それらの学校以外の指導が学校の教育計画に一致しないことや、児童生徒の負担が過重になることなどから、さまざまな弊害がおこることが心配される。

学校は、学習指導の主体性が学校にあるという自覚をいつそう強くするとともに、授業の充実に努め、教育者としての日々の職責を遂行しなければならない。

さらに学校教育においては、知育についてかたよつたものにならないように留意して、これを進めることが必要なのはいうまでもないが、また、しつけの面や体力の面、情緒安定の面についても、家庭と互いに協力し、積極的にこれにあたらなければならない。

特に集団における規律の意義を理解させ、規律を守る態度を養うことは、学校の重要な機能である。また、この指導を通して全体と個との関係を理解させることは、社会生活の基本的態度を養ううえに欠くことのできないことである。

すなわち、学校生活において、児童生徒が責任・じゆん法・誠実・勤労等の態度を身につけ、体力を増進し、日本国民としてりつぱな行動をとることができるように指導することは、学校教育の忘れてはならない任務である。

このようにして、学校は、正しい教育理念のもとに全人教育をすすめ、世界の教育の発展に立ちおくれないようにしたいものである。

四 学校教育から見た家庭教育のあり方

家庭は、本来愛情にあふれ、強い一体感で結ばれ、生活を通して子どもに強い感化を及ぼすものであり、子どもにとつて最初の教育の場である。

子どもは、自他の人間関係を、まず親やきようだいとの関係において経験する。親子、きようだいの関係のあり方は、その人の人間観、社会観の基本を形づくる。安定した情緒、健全な生活態度、健康保持の基礎的な習慣などは、家庭で養われるものである。

しかるに、ともすれば、親は自分の子どもさえよければよいと考えがちである。学校は、親の願いを実現させるように努めるとともに、国家社会の要請にもこたえなければならない使命をもつている。家庭における子女の教育が、利己的傾向やひとりよがりに陥つていると思われるような場合、学校は家庭とじゆうぶん話し合わなければならない。

戦後、世相の変化や価値観の転換によつて、家庭の教育にいろいろの問題が生じたといわれるが、家庭は、自信をもつて子どもの指導にあたるべきであり、学校もまた家庭と手を結んで、ともどもに努力していきたいものである。

以上述べたように学校と家庭とがそれぞれ教育についての理解を深め、両者が正しく協力していくことは、むずかしいことであるが、多くの人々の努力の集積によつて効果が現われてくるものである。

別添資料は、都内各学校における実践と研究の集積を整理したものである。各学校においては、これらの資料を参照し、それぞれの学校に適した具体案を作成し、正しい教育の実現に努力されたい。

別添資料(略)

学校と家庭の教育上の協力について

昭和41年2月11日 教指管発第56号

(昭和41年2月11日施行)

体系情報
指導部義務教育指導課
沿革情報
昭和41年2月11日 教指管発第56号